大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 昭和44年(行ウ)2号 判決 1972年2月18日

奈良市西木辻町一二九

原告

宋良夫

右訴訟代理人弁護士

戸毛亮蔵

奈良市大路町

被告

奈良税務署長 津村兤雄

右指定代理人

二井矢敏朗

右同

吉田実男

右同

田中晃

右同

山中鎮夫

右同

四方伊佐夫

右同

砂本寿夫

右同

徳修

右同

高野潔

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告が、原告の昭和四一年分所得につき、昭和四三年六月一七日付で、所得金額を五、八九九、四二五円、所得税額を一、九六〇、三〇〇円と更正し、且つ同日付で過少申告加算税九五、三〇〇円を賦課した決定をいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決

第二、当事者の主張。

(原告の請求原因並びに被告の主張に対する答弁)

一、昭和四二年三月、原告は同人の昭和四一年分の所得税申告に際して事業所得、一六三、五〇〇円、譲渡所得四四〇、七〇〇円、合計六〇四、二〇〇円としてその所得を申告し、右金額より法定の控除を行い計算した税額五三、八七〇円を納付した。

二、ところが被告は、右申告中譲渡所得が過少であるとして、昭和四三年六月一七日原告の右譲渡所得を五、七三五、九二五円、原告の昭和四一年分の所得を五、八九九、四二五円、法定の控除を行つた上税額を一、九六〇、三〇〇円と更正するとともに原告に対し過少申告による加算税九五、三〇〇円の賦課決定をなし、翌一八日原告はその旨の通知を受けた。(尚、以下右更正並びに加算税賦課決定を合わせて単に本件更正処分等と略称する)

三、そこで、原告は昭和四三年七月一日被告に対し異議を申し立てたが間もなく棄却された。同年一二月九日被告の上級官庁である大阪国税局長に審査請求を申し立てたが、昭和四四年九月一八日原告の請求を棄却する旨の裁決がなされた。

四  しかしながら、本件更正処分等は次に述べるように違法なものであり取消されるべきものである。

(一) 原告の昭和四一年分の所得のうち、譲渡所得の対象となつた奈良市西包永町三二番地宅地七五三・七一平方メートル、同所三四地番の三、宅地一四二・八〇平方メートル、同所三五番地の三、宅地八一・〇五平方メートルの三筆の不動産(以下本件不動産という。)は登記簿上原告の名義となつているが、真実は訴外宋瑞比の所有にかかるもので、右不動産の譲渡による利益の実質的帰属者は同人であつて原告は何ら関与していない。したがつて本件不動産の譲渡所得の実質的帰属者は宋瑞比であるから、本件不動産の譲渡所得が原告に帰属することを前提とする本件更正処分等は違法であり取消されるべきである。

(二) 仮りに本件譲渡所得が原告に帰属するとしても、本件不動産の譲渡価額は、被告主張のように一四、九〇〇、〇〇〇円ではなく七、五〇〇、〇〇〇円である。原告としても本件不動産の取得費が被告主張のように二、四七五、九五〇円であることは争わないから、原告の本件不動産の譲渡による所得金額は次のとおりとなる。

<1> 収入金額 七、五〇〇、〇〇〇円

<2> 取得費 二、四七五、九五〇円

<3> 譲渡益 五、〇二四、〇五〇円(<1>-<2>)

<3> 特別控除額 一五〇、〇〇〇円

<5> 譲渡所得金額 二、四三七、〇二五円(<3>-<4>×1/2)

したがつて原告の昭和四一年分の所得を五、八九九、四二五円と更正した本件更正処分等は、右譲渡金額に、金額に争いのない事業所得金額一六三、五〇〇円を加算した原告の昭和四一年分の所得二、六〇〇、五二五円の範囲を超える部分については少くとも違法であり、取消を免れない。

(請求原因に対する答弁並びに被告の主張)

一、請求原因一ないし三項の事実は認める。

二、被告は原告の昭和四一年分の所得税申告について調査の結果、原告の譲渡所得についての申告額は過少と認めたので次のとおり更正すると共に原告に対し過少申告加算税九五、三〇〇円の賦課決定処分をなした。

<1> 収入金額 一四、九〇〇、〇〇〇円

<2> 取得費等 三、二七八、一五〇円

<3> 譲渡益 一一、六二一、八五〇円(<1>-<2>)

<4> 特別控除額 一五〇、〇〇〇円

<5> 譲渡所得額 五、七三五、九二五円〔(<3>-<4>)×1/2〕

<6> 事業所得額 一六三、五〇〇円

<7> 総所得額 五、八九九、四二五円

<8> 更正納税額 一、九六〇、三〇〇円

三、原告は昭和四一年一〇月四日本件不動産を訴外雨島信男に対し、金一四、九〇〇、〇〇〇円で譲渡したもので、本件不動産の取得費は二、四七五、九五〇円であるから、右収入金額より控除し、更に特別控除額一五〇、〇〇〇円を控除して譲渡所得金額を算定すると六、一三七、〇二五円となり、これに金額に争いのない事業所得金額一六三、五〇〇円を加算すると原告の昭和四一年分の総所得は六、三〇〇、五二五円となり、原告の昭和四一年分の総所得金額を五、八九九、四二五円と更正した本件更正処分は、右原告の総所得の範囲内でなされたものであるからなんらの違法もなく適法である。したがつて右更正処分が適法である以上、原告が所得申告に際して過少申告をなしていることは明白であるから、国税通則法六五条第一項の規定により、原告に対する過少申告加算税九五、三〇〇円の賦課決定もまた適法である。

したがつて原告の請求はいずれも理由がなく棄却されるべきである。

第三、証拠関係

(原告)

1  甲一ないし六号証を各提出。

2  証人西島信男、同宋瑞比の各証言を援用。

3  乙五号証のうち官署作成部分の成立を認め、その余の成立は不知、乙一〇号証、乙一二ないし一九号証の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

(被告)

1 乙一ないし五号証、六号証の一ないし三、七、八号証、九号証の一、二、一〇号証、一一号証の一、二、一二ないし一九号証、二〇、二一号証の各一、二、二二、二三号証を各提出。

2 証人西島信男、同溝口忍の各証言を援用。

3 甲二号証、三号証(裁決書末尾に加筆された部分を除く。)の成立をいずれも認め、その余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

一、成立に争いのない甲二、三号証、乙一ないし三号証、乙五号証、乙六号証の一ないし三、乙七、八号証、乙二一号証の一、二、乙二二、二三号証、証人溝口忍、同宋瑞比(後記信用しない部分を除く。)の各証言、及び弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる。

(一)  奈良市西包永町三二番地の土地については昭和三四年六月二二日訴外芝川又四郎から原告に対し同日付売買を原因として、前同所三四番地の三の土地については昭和三五年一月二七日訴外日吉良雄から原告に対し同月一〇日付売買を原因として、同所三五番地の三の土地については昭和三六年七月一七日訴外吉川芳太郎から原告に対し同年六月二〇日付売買を原因として各所有権移転登記がなされたが、本件不動産の売買にあたつては、原告の実父訴外宋瑞比が、そのころ大学生であつた原告に大学卒業後、本件不動産を利用して市場を経営させる目的で原告を買主として右各売買の交渉にあたつた。

(二)  その後本件不動産について、昭和四一年一〇月四日原告から、訴外西島信男に対し、同日付売買を原因として所有権移転登記がなされたが、右売買にあたつても、訴外宋瑞比が原告を売主とし、自らは売主の責任者であると表示して右売買の交渉を行つた。

(二)  訴外宋瑞比は、昭和四三年三月本件不動産の訴外西島信男に対する前記譲渡による所得が原告に帰属するものとして、原告の名義で確定申告をなし、その後行われた奈良税務署国税調査官溝口忍による譲渡所得の調査にあたつても、原告と共に同人に数回面接したにもかかわらず、本件不動産の所有権が原告でなく、自己であつた旨の申告をなさず、原告もまた右面接の際、右所権並びに譲渡所得の帰属について争わなかつた。

そして、本件更正処分に対する異議申立、更には審査請求についても右譲渡所得が原告の所得であるとしてその帰属については何ら争うことがなかつた。

右認定に反する証人宋瑞比の証言部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、訴外宋瑞比が原告の名義を用いて自己のために本件不動産を買い受け、又売却したとの事実については特段の証拠のない本件においては、訴外宋瑞比が原告に代つて原告のために本件不動産を買受け、また売却したものと推認するのが相当であり、従つて本件不動産の譲渡による所得は原告に帰属するものというべきである。

二、成立に争いのない乙九号証の一、二、同一一号証の一、二、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙一五号証、弁論の全趣旨より真正に成立したものと認められる乙一二ないし一三号証、証人西島信男、同溝口忍の証言によれば、原告は、昭和四一年、本件不動産三筆を訴外西島信男に売却したところ、売買契約時に手付金として五〇万円が現金で、西島信男から原告に支払わられ、残代金として、昭和四一年八月二〇日四〇〇万円、同年一〇月五日七〇〇万円、と三四〇万円が小切手で西島から売買契約の責任者である宋瑞比に支払われ、合計一、四九〇万円が本件不動産の売買代金として支払われていることが認められる。原告は、本件不動産の売買代金は七五〇万円であり、昭和四一年当時、原告或いは宋瑞比と西島信男の間には、本件売買契約以外に相当な金銭の貸値関係があり、西島からの入金には、右貸借関係による返戻金が含まれていると主張するが、甲一号証、同四ないし六号証、証人宋瑞比の証言によるも右主張を肯認するに足らず他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。従つて、本件不動産の売買代金は少くとも一、四九〇万円以上であつたことが認められる。

三、本件不動産の取得費が、二、四七五、九五〇円であることは当事者間に争いがないから、本件不動産の譲渡所得は少くとも次のとおりであることが認められる。

<1>  収入金額 一四、九〇〇、〇〇〇円

<2>  取得費 二、四七五、九五〇円

<3>  譲渡益 一二、四二四、〇五〇円(<1>-<2>)

<4>  特別控除額 一五〇、〇〇〇円

<5>  譲渡所得金額 六、一三七、〇二五円〔(<2>-<4>)×1/2〕

そして、原告の昭和四一年分の事業所得が一六三、五〇〇円であることも当事者間に争いがないから原告の昭和四一年分課税総所得金額は六、三〇〇、五二五円となることが認められる。

四、従つて、原告の昭和四一年分の課税所得金額を五、八九九、四二五円と更正した本件更正決定処分は、前記原告の課税総所得金額六、三〇〇、五二五円の範囲内にあるから適法である。そして、本件更正決定が適法であるから、原告がなした過少申告税額に基いて、国税通則法六五条第一項の規定により過少申告加算税を算定すると、原告に対する過少申告加算税額は九五、三二〇円となり、その範囲内で原告に対し、過少申告加算税九五、三〇〇円を賦課した本件賦課決定も適法である。

五、以上認定説示のとおり原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 谷口伸夫 裁判官 林醇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例